日本酒の生酛造りの特徴とその魅力 - 酒米屋 吟

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日本酒の生酛造りの特徴とその魅力

日本酒の世界は、面白い。生酛造り、江戸時代では一般的だったな製法に注目していきたいと思います。仕込みの準備や発酵工程における技術、酵母菌や乳酸菌の役割についても触れ、伝統的な製法の奥深さを紹介します。本日テイスティングする、新政と松の司の生酛純米酒の飲み比べも行い、日本酒の奥行きと新たな発見を見つけていきたいともいます。それでは乾杯(^^)/

生酛造りの基本と歴史

生酛(きもと)造りは、日本酒の伝統的な醸造法の一つ、江戸時代は一般的な醸造方法として各蔵元が日本酒を造っていました。この方法は、各蔵に住みついている野生の酵母菌を利用して酒母(もと)を育てます。現代の速醸法(買ってきた酵母菌を使用する方法)に比べて手間と時間がかかるし、酵母菌が雑菌に負けないのが不思議な状況でした。いいポイントは、時間の中で乳酸菌だけではなく、微生物や酵素が活躍できるのと、より厳しい環境で育ったぶん発酵力が強い、風味が複雑になるのです。こうした理由から近年再評価され、生酛造りを復活する蔵元も出てきています。

生酛造りの定義と特徴

生酛造りは、酵母と乳酸菌を自然に発生させながら醸造を進める、伝統的な酒母仕込みの一種。この方法は、酵母と乳酸菌を別々に添加するのではなく、蔵の中に住みついている野生の酵母菌を利用して発酵を促進します。原料を混ぜて一定期間発酵させることで、乳酸菌と酵母が自然に繁殖するまで辛抱強く待ちます。このため、完成した酒は味に深みがあり、一般的な純米酒や本醸造などよりも複雑な味わいになります。また、長期間時間をかけて発酵させることから、手間がかかる反面、自然本来の味わいが引き出される点も大きな特徴です。作業は複雑で技術を要しますが、その分、伝統の意義や酒蔵の個性が反映されやすい醸造法です。

生酛造りの歴史と伝統

生酛造りは、奈良時代や平安時代にまでさかのぼる、日本の最古の醸造法の一つとされています。当時は「酛(もと)」という自然の乳酸菌を利用した方法が採用され、腐敗防止や発酵の維持を目的として発展しました。平安時代には貴族や寺院で高級な酒として重宝され、その製法は代々伝承されてきました。室町時代や江戸時代には、「生酛」は酒の品質を向上させる手法として広まり、多くの酒蔵が取り入れるようになりました。江戸時代に入ると、火入れや防腐のために加熱処理を施す方法も普及しましたが、生酛の伝統は絶えず継承されてきました。近代以降は工業的な大量生産の影響で一時は衰退したものの、昭和後期からは自然派や本格志向の酒好きの間で再評価された結果、現代の多様な日本酒のスタイルの一つとして復活しています。

他の酒母との比較

生酛造りと他の酒母法との大きな違いは、乳酸菌と酵母を自然に繁殖させる点にあります。代表的な他の酒母法には、「速醸酛(そくじょうもと)」や「山廃酛(やまはいもと)」があります。速醸酛は、乳酸菌や酵母を人工的に添加し、短期間で発酵させる方法であり、手間が少なく生産効率が良いのが特徴です。一方、山廃酛は、乳酸菌の自然繁殖を促進させる点は生酛と似ていますが、工程を一部、省略した手法です。生酛と同じジャンルになります。

酒蔵や消費者の好みに応じて選ばれています。生酛や山廃は、伝統的な手法で、その自然由来の味わい深さが大きな魅力です。

酒蔵の写真
梅ヶ枝酒造

生酛造りの製造工程と技術

生酛は「生」の字が示す通り、酵母や乳酸菌を自然に発生させて酒母(もとはやし)を作る方法。その伝統と技術は数百年にわたり受け継がれてきました。現代の酒造りにおいても、生酛特有のやさしい乳酸の風味とコクを生み出すため、職人たちは伝統的な技術を重視しています。こうした技術は、酵母や乳酸菌の働きを最大限に引き出すために、その工程や管理を緻密に制御することにより達成されます。この記事では、まず仕込みの準備と原料について述べ、次に酵母と乳酸菌の役割、最後に発酵の過程とその管理について詳しく解説します。これにより、生酛造りの奥深い技術とその工程の重要性を理解できるでしょう。

仕込みの準備と原料

生酛造りの、仕込みの材料は、米、水、麹菌、酵母、乳酸菌。米は、洗米や蒸しによって適切な硬さと粘りに調整します。蒸した米を少し冷ましてから麹室で麹菌を繁殖させます。次に、仕込みに際しては、酵母や乳酸菌を自然に発生させるために、専用の菌種をあらかじめ準備し、一定の温度と湿度を管理した室内環境で発酵させます。生酛造りでは、特に乳酸菌を自然に育てる工程が重要、これは既存の培養ではなく、自然の乳酸菌を取り込みながら醸造を進めます。醸造用の水は、ミネラルバランスやpHに留意し、微生物の働きを最適化します。こうした準備と原料の選択次第で、生酛の風味や仕上がりが決まるため、職人の技と知識が求められます。

酵母と乳酸菌の役割

生酛造りにおいて、酵母と乳酸菌は酒の品質と風味の核を成す重要な微生物です。酵母は糖分をアルコールに変換し、酒のアルコール度や香りの成分を形成します。一方、乳酸菌は、米の糖を乳酸に変えることで、自然な酸味と安定性をもたらします。この乳酸の生成が、他の酒母と比較して生酛の特徴の一つであり、酒の深みとコクを生む要素となります。生酛では、酵母と乳酸菌が共同で働き、発酵の初期段階で微生物のバランスをとることが難しい反面、熟成された味わいと独特な香りを生み出します。自然界から取り込む乳酸菌や酵母の働きは、熟練の職人の技と経験によって巧みに誘導されます。また、適切な温度管理や菌の繁殖環境の整備により、微生物の活動範囲がコントロールされ、安定した発酵が実現します。こうした微生物の役割を理解し、最適な環境を整えることが、生酛の味わいを最大化する鍵となります。

発酵の過程と管理

生酛造りの発酵過程は、他の酒母と比べて長期間かつ緻密に管理されることが特徴です。初期段階では、乳酸菌と酵母が自然に発生し、酒母のベースを形成します。これには、適切な温度(通常は20℃前後)と湿度の管理、菌の繁殖状況の観察が不可欠です。この過程では、微生物の活動を促しながらも、外部環境からの侵入や汚染を防ぐために、衛生状態の保持も徹底されます。発酵期間は一般に2週間から1か月程度で、温度管理が特に重要です。適切な温度設定により、酵母と乳酸菌のバランスが保たれ、酒に特有の深い風味と酸味が育まれます。途中で定期的に櫂(かい)や竹串を使って醪(もろみ)の状態を確認し、必要に応じて温度や湿度を微調整します。発酵の末期には、酵母の活動がピークに達した段階で火入れ(殺菌処理)を行い、発酵を止めて酒の仕上げに移ります。生酛造りでは、この発酵管理の巧みさが、伝統的な味わいと、現代の技術を融合させた高品質な酒の醸造を可能にしています。この工程は、すべての工程の中でも最も重要であり、職人の経験と感覚が直接結びつきます。

新政と松の司飲み比べ

生酛造りこそ、純米酒でのむべし!!現代の精米技術は昔と比較にならないほど高くなっています。高精米歩合の日本酒はたくさん出てきています。それ自体はいい事なのですが伝統的な製法をいかすにはあまりお米を磨かないタイプの方が、まだ昔に近い。

香りの問題もあります。生酛造りの最大の特徴は、乳酸のやさしい香りです。いきなり乳酸を投入する速醸法だたと、この香りが出せない。また吟醸香があるとこの香りは覆い隠されてしまう。また醸造アルコールを加えるとまたその香りは薄まってしまう。お米をあまり磨かない純米酒こそ生酛造りの特徴を最大限に活かせる方法です。そういうわけで本記事では、「新政 生成純米」と「松の司 生酛純米酒」の二つの代表的な酒を取り上げ、その特色や造りの背景を詳しく解説します。乾杯(^^)/

ワイングラスの中に日本酒をそそいだ写真
テイスティング風景

新政 生成純米

秋田県 新政酒造 新政 生成2014 純米 麹米40% 掛米60% あきた酒こまち使用 まずはワイングラスに注いでみます。色味は吟醸系のお酒より濃いですね。香りをかいでみます。生酛造りの中では香りが強い部類だと思います。少し酸のヨーグルトっぽい香り、やさしくて柔らかい香りを感じます。この香りは生酛造りタイプの日本酒の最大の特徴です。グレープフルーツのような香りもあります。フルーツだけでなく、お米の香りもしっかりしている。つきたてのおもちのような香りです。東北地方らしい香り、ボリュウーム感の少ないかおりです。

口に含んでみます。乳酸のやさしい酸味を感じます。そのあとで上がってくるお米の甘味はしっかりしている。後味に苦味を感じるものの、全体的にはきれいなお酒です。食感にとろッとしたコクがある。これも生酛造りの特徴の一つでしょう。

乳酸の香りがする生酛タイプの日本酒には発酵食品が相性がいいです。チーズなどはよく合うと思います。焼き魚なら西京漬けや粕漬がいいでしょう。中華料理もいいと思います。鶏肉とカシューナッツの炒め物なんていかがでしょうか?ピーマンの青っぽい苦味とこのお酒の苦味はよく合うと思います。

松の司 生酛純米酒

滋賀県 松瀬酒造 松の司 生酛純米酒 精米歩合65% この日本酒には「使用酵母 無添加」と裏ラベルに記載されています。乳酸を添加しない生酛づくりといっても、酵母は添加することが多いのですが、この銘柄は蔵に住みついた野生の酵母菌だけでつくられている。より江戸時代にちかい製法だということですね。

まずは香りをかいでみます。香りは強くない、お米の香りはしっかり感じられる。炊き立てのご飯のような香り。乳酸のやさしい香りも新政ほどではないが感じられます。

口に含んでみます。お米の味はあまり感じられない。辛口と言って良いかもしれない。最初のアタックはスッキリしているのに、後半から生酛造りらしい乳酸の風味と旨味がのってくる。苦味もえぐみもある。お燗にして最初から乳酸の香りを引き立てるのも面白いが熱燗にすると風味とバランスが崩れることが多いので、35℃~40℃程度の、人肌燗やぬる燗がいいと思います。この温度帯なら、刺激は強くならず、乳酸のやさしさを残したまま、余韻は長くなっていくはず。余韻が長ければ心地いい苦味が口の中にずっと残る。

生酛造りなら白身のお刺身からいろいろなタイプチーズも合わせられる。ハードからフレッシュまでいける。中華料理やエスニック料理に相性がいいお酒です。そしてこの余韻に残る苦味がゴーヤチャンプルーにも負けない。このお酒の風味もオイスターソースと相性がいい。こう考えていくと生酛造りは、食中酒にはもってこいのお酒ですね。

この記事は日本酒テイスティング北原康行さんの著書を参考にして私の経験と感想をあわせて書いてます。次回は酒米に注目したいと思います。

種子島の米作り、日本最南端の酒米 吟のさと

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